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ブルシットジョブ

ショートなショートショートを書いてみました。

小学生だった頃の僕は、よくランドセルのフタを開けっ放しにして帰っていて、下を向いた拍子に中身をばら撒いてしまうことがしょっちゅうあった。その度に、通りすがりの親切な大人が片付けを手伝ってくれた。

大学生になり、いつか自分も街に恩返しがしたいと思っていた僕は、とあるアルバイトを見つけた。「ライオンの目となり街を見守る」という仕事だ。数日後、面接を受けて採用され、僕は「ライオンの目」として働き始めた。勤務は平日14時から17時まで。そう、ちょうど小学生が下校する時間帯だ。僕は暗闇から双眼鏡を覗き、西日の射す街を見張る。車道を挟んだ向かいの狭い歩道で、戯れて走り回っている子どもたちがいる。あ、ランドセルのフタが開いている...!すぐさま、別地点のライオン像の中の人と連絡を取り合い、位置情報からその子のランドセルのメーカー、色、発売年、個別ナンバーを特定する。そして、スイッチをON。僕の仕事はここまで。昇進すれば、日本橋の百貨店前で勤務できるらしい。子どもは、こちら側に吸い寄せられるようにクルっと体の向きを変え、靴紐を結ぼうと身をかがめた途端、教科書やノートがバサバサっとこぼれ落ちるのであった。