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ないものはねだるまでもなく

私は、自分に無いものを常に欲していて、それは自分で手に入れようとするのと同時に、他者の存在を手元に置いておくことによって、その欲を満たそうとしています。

私は冷たい人間です。だから、温かくあるべきだと思って自らを発熱させようとするし、近くに温かさを持った人が居れば、余すことなくその温度の恩恵を享受しようとします。

私は、二重で鼻筋が通っていて肌が白くて髪が柔らかくて程よく引き締まった筋肉を持った身体をいつまでも眺めたいと思っています。自分自身がその理想像に近付きたいとするのと同時に、そういう人間が永遠に閉じ込められている画は一枚たりとも見逃したくありません。

私は沈黙の間が耐えられなくて、それを自分から埋めようと思うけれど、本心で思っていることしか言葉にならないので結局黙ってしまいます。だから、沈黙を埋めてくれる人と話している時間がとても心地良いし、ずっと続けばいいのにと思って、この心地良い空気を終わらせてしまう勇気もないので、相手が切り上げてくれるのを待っています。沈黙を埋めてくれるし、程良いところで終止線を引いてくれる、そういう人とばかり仲良くしています。

自分が、温かさを持っていて、眺めて美しいと思う身体を獲得して、沈黙を許せて、もう寝ますと申し出ることができる人間だったら完璧で、他者の存在に頼る必要はなくなるのに、と思います。

私は譲れません。妥協するフリは度々してしまいます。でも、妥協するフリをしても、諦めるべきなのだろうと思っていても、欲望を完全に拭い去ってしまうことはできません。だから、自分で手に入れようとするのと同時に、他者の存在を手元に置いておくことによって、その欲を限りなく満たそうとしています。自分で手に入れられないうちに、その存在がいつか自分の目の前から消えてしまうかもしれないことを恐れています。全部繋ぎ止めておけたらいいのに、と思います。もう満足してしまえば、その他者の存在は必要としません。自分がその存在を必要としなくなってしまうかもしれないことも、寂しい気がします。