コミュニケーションを拒絶している、と言われた。たしかに、私は人に話しかけるのがちょっと怖い。親にお金の相談をしようと思って、結局言い出せない。駅で膝を擦りむいている人に声を掛ける勇気がなくて、絆創膏を探すふりをしながら時間を稼ぐ。偶然会った友人の友人に、勢いよく「How are you?」と聞かれて、(元気じゃないけど、I'm fineって言ったほうが無難か、いや......)、と考えているうちに沈黙を作ってしまう。
社会に出たら、もっと厳しいんだから、と言われた。でも、膝を擦りむいた人が「ティッシュ1枚持ってませんか?」と話しかけてくれたおかげで、私はティッシュを渡して、見て見ぬふりをせずに済んだ。日本語ですぐに「元気?」と聞き直してくれたおかげで、「うん、元気」と会話を続けられた。
社会を生きている人たちは、優しいじゃないの、と私は思った。少なくとも、取手駅周辺で出会ったさっきの2人は。
私は、コミュニケーションが苦手だから、拒絶してしまうこともある。だから、私のような人たちが安心してコミュニケーションできる場を作ろうとしている。厳しい社会の隙間に、優しい人たちが生きているはずだ。たくさん。
私が作る「創作とコミュニケーションの場」の中で過ごす間は、社会は厳しくないし、話しかける勇気がなくてもいいし、沈黙を作っても平気だ。そもそも、そんな場はいらねえよ、と拒絶することも許されている。こんな場に居続けられるかよ、と途中で抜け出してもいい。
「創作とコミュニケーションの場」は、コミュニケーションを拒絶しても大丈夫な、厳しくない仮設の社会です。